設計→施工の手戻りはなぜ消えないのか — 国交省『4次元モデル活用の手引き(令和3年3月版)』が示す解
国土交通省『設計-施工間の情報連携を目的とした4次元モデル活用の手引き(案)令和3年3月版』を読み解き、4次元モデルが設計-施工の情報連携にどう機能するか、活用場面別の要件、作成手順、工種体系ツリーとの整合まで、詳細設計を担う設計者・発注者支援担当向けに整理する。
「設計段階で十分に検討したはずの施工計画が、施工に入ってから手戻りで再検討になる」——土木の現場で繰り返されてきた構造的な課題に、国土交通省が明確な処方箋を示しています。それが 設計-施工間の情報連携を目的とした4次元モデル活用の手引き(案)令和3年3月版です。3次元モデルに時間情報を組み合わせた「4次元モデル」を、設計段階で適切な粒度で作成し、施工段階に確実に伝達する。本稿は、この手引きの要点を、詳細設計を担う設計者・発注者支援業務担当者・施工計画担当者の視点で整理します。
なぜ「設計→施工の情報連携」がボトルネックになるのか
土木の伝統的な情報伝達は、図面・報告書と三者会議(設計・施工技術連絡会議)に依存してきました。手引きの「まえがき」は、この伝達手段の限界を率直に指摘しています。設計段階で検討された施工計画に関する情報——工事用道路、資材運搬方法、施工ヤード、施工に影響する近接構造物や支障物件——は、図面と紙の報告書に分散して記載されるため、施工者が「設計意図のどこに留意点があるのか」を読み取り損ねやすい。結果として、施工段階での再検討に時間を要したり、設計意図の理解不足で手戻りが発生したりします。
国土交通省が推進する BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)は、本来この問題に対する答えのはずです。しかし手引きは、ここでもう一つの率直な認識を示しています。「従来のBIM/CIM試行事業において、3次元モデルを用いた設計-施工間での情報連携がなされた事例はほとんど見られないのが実状」。3次元モデルは作られていても、設計→施工の情報連携には十分機能していなかったわけです。
その原因として手引きが指摘するのは、「発注者が設計者にどのような3次元モデルを指示すれば施工者にとって有用なのかを把握していない」点。つまり、技術の問題ではなく発注仕様の問題です。この穴を埋めるために、令和3年3月版の手引きは、発注者が利用場面ごとに何を設計者に指示するかを体系化しました。
4次元モデルとは何か — 3次元モデル+時間情報
手引きの用語定義はシンプルです。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 4次元モデル | 3次元モデルに時間情報を付与したモデル |
| 施工ステップ | 施工手順を示したもの |
| 粒度 | 施工ステップや工程表の項目を区切る単位の詳細度 |
| 工期設定支援システム | 歩掛かりごとの標準作業日数・作業手順を自動算出するシステム |
ポイントは、**「4次元モデルの作り方は一つではない」**ことです。年単位で進捗を見たいのか、日々の施工手順を確認したいのか、用途で粒度を変える必要があります。手引きはこの粒度を 4 段階に分けています。
- ①事業計画の立案・管理に必要な施工ステップの粒度(年単位)
- ②設計段階での検討に必要な施工ステップの粒度(数ヶ月単位)
- ③施工手順の表現等に必要な施工ステップの粒度(日〜週単位 / 施工段階)
- ④日々の施工計画等の表現に必要な施工ステップの粒度(最も細かい / 受発注者間協議で決定)
令和3年3月版が対象とするのは ①と②、つまり詳細設計業務段階で設計者が作成する 4 次元モデルです。施工段階で施工者が独自に作成する③④は「当面電子納品の対象外」と位置づけられています。
4つの活用場面と、それぞれに必要な「粒度」
手引きの中核は、4つの活用場面ごとに4次元モデルの要件を定義した部分です。
①事業管理
数年度にまたがる事業や複数工区分割事業で、工事の順番・工事用道路の計画・全体期間・費用・難易度・安全性を把握する目的。要件は次の通りです。
- 事業の進捗がわかる程度の施工ステップの粒度(例:年度ごとの工事進捗状況、主要構造物の完成時点を単位とする粒度)
- 3次元モデルの詳細度は、事業計画上の留意点が分かる程度
参考事例として、関東地方整備局 横浜国道事務所による 高速横浜環状南線 栄IC・JCT の事例が示されています。2019年4月→2020年6月の建設中モデルを緑色半透明で可視化し、事業全体のクリティカルパスを把握する用途です。
②施工方法や設定工期の妥当性の確認
設計時に想定した標準的な施工方法・設定工期が現実的かを検証する目的。要件は次の通りです。
- 詳細設計の 工程設定に用いた工程表の粒度に揃える(施工段階で検討する施工手順よりも細かい粒度は不要)
- 標準工法を導入できる箇所は「設計段階で検討した施工手順が分かる程度」、難しい施工方法や留意点があれば「留意点がわかる詳細度」
ここで重要なのは、**「過度な作り込みをしない」**という原則です。手引きは、構造物本体は LOD300 程度、仮設工などは LOD200 程度を目安に挙げています。設計段階で日々の施工計画まで作り込んでしまうと、生産性向上どころか業務負荷が増えるだけ、という冷静な認識が示されています。
③複数の関係者間の意思決定
地方自治体・施設管理者などとの関係者協議に使う目的。要件は次の通りです。
- 周辺環境を含むモデル化(施工現場の周辺環境への影響を考慮する場合)
- 近接する施設の管理者が定める離隔の確保を示すモデル(高圧送電線などの離隔範囲をモデル化)
中部地方整備局 紀勢国道事務所の熊野道路北部トンネル詳細設計業務(平成30年度) では、トンネルと橋梁が近接する条件下で、現道の切り回しが複数回必要な施工順序を 4 次元モデルで可視化した事例が紹介されています。構造物本体の詳細度を 300、仮設工は 200 と使い分けることで、過度な作り込みを避けつつ意思決定に必要な情報を提供している点が実装の参考になります。
④施工者への設計意図の伝達
工事発注時に施工者へ設計意図を伝達する目的。要件は次の通りです。
- 設計時に留意した項目を含む
- 総合評価落札方式での技術提案に活用する場合は、入札参加者が利用できるよう公告時に公開
- 施工における制約条件(施工期間・地理的制約)と施工上の留意点(地質条件、濁水・粉塵・騒音等の環境条件、設計上必要な高密度配筋等の詳細構造)のポイントを含める
- 施工時に留意すべき施工手順が一部でもある場合は、限られた部分だけを切り出し、留意事項が表現できる程度の粒度でモデルを分割
近畿地方整備局 浪速国道事務所の大阪湾岸道路西伸部 六甲アイランド地区 第五高架橋詳細設計業務 の事例では、橋脚の施工時に高圧線が近接する範囲を「特別高圧警戒範囲」として 3 次元モデル上で可視化したパターンと、橋脚の高さが他より高く転倒対策が必要な箇所に属性情報を付与したパターンの 2 例が示されています。3 次元モデルとして直接可視化するか、属性情報として付与するか——設計意図の伝達しやすさで方法を選ぶ、という運用思想です。
4次元モデルの作成手順 — 3ステップ
手引きは、汎用的な 3 次元ソフトウェアを使った 4 次元モデル作成の標準手順を 3 ステップで示しています。
ステップ1:3次元モデルを作成する
3次元モデル成果物作成要領 に準拠して 3 次元モデルを作成します。橋梁の例では、構成要素は 下部工_A1、下部工_P1、下部工_P2、下部工_A2、上部工_01 といった単位で分割します。
ここで重要な実装ノウハウが補足されています。「3次元モデルの構成要素は、不必要に細分化しないこと」。工程表との関連付け作業の手間を考慮すると、過度な分割はかえって運用負荷を生みます。
ステップ2:工程表を作成する
工種ごとに開始時期・終了時期を設定して工程表を作成します。手引きは工程表作成の留意点を次のように示しています。
- ファイル形式は CSV や EXCEL など、後工程で編集可能な形式
- 設定する項目は、活用目的に応じて設定するのを基本としつつ、後工程での活用を踏まえて 新土木工事積算体系における工事工種体系ツリー の各工種(レベル3種別・レベル4細別)に合わせるのが望ましい
- 各部材の場所情報は工種体系ツリーでは不明確なため、備考欄に場所がわかる情報を付与
具体例として手引きが示すフォーマットは次の構造です。
| 項目 | 備考 | 開始 | 終了 |
|---|---|---|---|
| 作業土工(床掘り、土砂等運搬、埋戻し…) | 下部工_A1 | 2019/04/01 | 2019/07/15 |
| 場所打杭工(場所打杭、土砂等運搬、…) | 下部工_A1 | 2019/07/16 | 2019/09/30 |
| 橋台躯体工(足場、支保、支保工基礎…) | 下部工_A1 | 2019/10/01 | 2020/01/31 |
ステップ3:3次元モデルと工程表を関連付ける
工程表を 3 次元ソフトウェアに読み込み、各ステップを 3 次元モデルの構成要素と紐付けます。事例として Autodesk Navisworks の TimeLiner 機能 を使った新野積橋詳細設計業務(北陸地方整備局 信濃川河川事務所、平成28年度) が紹介されています。
なお、3 次元ソフトウェアが 4 次元連携機能を持たない場合は、モデルの表示・非表示の切替によって 4 次元モデルを作成するという代替手段も示されています。
ソフトウェア選定と工程表フォーマットの落とし穴
手引きを読み込んで現場に展開するうえで、見落としやすい実装上の制約があります。
ファイル形式の事前確認:工程表で設定する項目・記載順・ファイル形式は、使用する 3 次元ソフトウェアで読み込める内容か事前確認が必要です。日付フォーマット(yyyy/mm/dd など)も、ソフトウェアが受け付ける形式に合わせる必要があります。
ソフトウェア間の互換性:手引きは Autodesk Navisworks(TimeLiner)の事例を中心に紹介していますが、Synchro Pro、Bentley SYNCHRO、Vico Office など他の 4D ツールでも同様の連携は可能です。ただしファイル形式の制約はツールごとに異なるため、発注時の指定が現場運用を左右します。
工期設定支援システムとの連動:国土交通省の工期設定支援システム は、歩掛かりごとの標準作業日数や作業手順を自動算出します。手引きは「設計段階で作成した 4 次元モデルを官積算や施工等で円滑に利用できるようにするための効果的な手法の一つ」として、工期設定支援システムとの連動を挙げていますが、現状はエクセルファイルの加工やプロジェクトマネジメントツールとの連携が必要で、3 次元ソフトウェア側の対応が今後の課題と位置づけられています。
「課題」が示唆する次の半年〜1年の動き
令和3年3月版は 詳細設計業務段階に着目した内容で、発注者支援業務段階や工事発注段階での 4 次元モデル更新は、次年度以降の改定で対象範囲を拡大する予定とされています。手引きが「今後の課題」として挙げる項目を読むと、ロードマップが見えてきます。
- 発注者支援業務での 4 次元モデルの更新方法
- 工事発注段階での 施工計画反映済み 4 次元モデルの活用方法
- 時間・位置座標を付与した 4 次元モデルを管理するデータプラットフォームの整備(GIS 等のプラットフォーム上で参照できる環境)
- 工期設定支援システム連動を効率化する 3 次元ソフトウェア・ツールの開発
- 4 次元モデルを実装するための ソフトウェア環境の整備
これらは個社では解決できない領域ですが、自社の体制を整える際の指針にはなります。特に 「データプラットフォームでの参照」 という方向性は、CDE(Common Data Environment)の議論と連続するもので、4 次元モデルが「単体の納品物」から「プラットフォーム上の参照可能なデータ」に移行する道筋を示しています。
詳細設計者・発注者支援担当が今やるべきこと
手引きを読み込んで、今すぐ実装に着手できるアクションは次の3つです。
- 発注者として:詳細設計業務の指示書に、4 次元モデルの活用場面(①〜④)と、それぞれに対応する施工ステップの粒度・モデル詳細度を明示する。手引きの図2・図3の整理が、そのまま発注仕様の骨格になります。
- 設計者として:使用予定の 3 次元ソフトウェアが工程表をどの形式で読み込めるか、TimeLiner 等の 4D 機能の制約を事前確認する。納品時点で詰まらないよう、初動の確認が肝です。
- 発注者支援業務担当として:詳細設計時の工程表を、新土木工事積算体系の工種体系ツリー(レベル3種別・レベル4細別)に揃えて整理する。これにより、後工程の積算・工事発注での再利用性が高まります。
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参考・出典
- 国土交通省「設計-施工間の情報連携を目的とした4次元モデル活用の手引き(案)令和3年3月版」
- 国土技術政策総合研究所「3次元モデル成果物作成要領(案)」
- 国土技術政策総合研究所「新土木工事積算体系における工事工種体系ツリー」
- 国土交通省「工期設定支援システム」
- 国土交通省「直轄土木業務・工事におけるBIM/CIM適用に関する実施方針」
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