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改正電帳法で建設業が「違反」になる3つの落とし穴 — 図面・契約書の電子保存

2024年に完全義務化された電子取引データ保存への対応を、建設業の経理・総務担当者向けに整理。図面・工事請負契約書・出来高検収書など建設業特有の論点、JIIMA認証ソフト選びと猶予措置、実務対応の5ステップまで一次情報を踏まえて解説します。

#電子帳簿保存法 #経理 #電子化

2024年1月から電子取引データの電子保存が完全義務化され、すべての事業者が電子帳簿保存法(電帳法)への対応を迫られています。建設業の経理・総務担当者からは、「図面や出来高検収書はどう扱えばよいのか」「現場が紙ベースのままで進まない」といった声が多く聞かれます。本記事では改正電帳法の全体像、建設業固有の論点、実務対応ステップ、JIIMA認証ソフトの選び方を整理します。

電子帳簿保存法の全体像

電子帳簿保存法は、税法上保存が義務付けられている帳簿・書類について、一定の要件のもと電子データでの保存を認める法律です。国税庁は制度を次の3区分で整理しています(国税庁:電子帳簿等保存制度特設サイト)。

区分対象義務/任意
電子帳簿等保存会計ソフト等で電子的に作成した帳簿・決算書類任意
スキャナ保存紙で受領・作成した書類をスキャンして保存任意
電子取引データ保存メール・EDI・クラウド等で授受した取引情報義務(2024年1月〜)

「電子取引」とは、請求書・注文書・領収書・契約書などをメール添付PDFやクラウド経由で授受した取引の総称です。これらを紙に印刷して保存することは、原則として認められません。

2022年改正と2024年完全義務化

2022年1月の改正で事前承認制度が廃止され、タイムスタンプ付与期限も「3営業日以内」から「最長約2か月+7営業日以内」に延長されました(テックタッチ:改正電帳法のタイムスタンプ要件)。同時に電子取引データの電子保存が義務化され、2年間の宥恕措置を経て、2024年1月からは電子データのまま保存することが原則として義務となっています(国税庁:電子帳簿保存法の内容が改正されました(令和5年度税制改正))。

保存要件:真実性と可視性

真実性の確保(改ざん防止) は、タイムスタンプ付与データの授受、訂正削除履歴が残るシステムでの保存、または事務処理規程の運用のいずれかで対応します。

可視性の確保(検索要件) は「取引年月日」「取引金額」「取引先」での検索が可能なこと。基準期間の売上高5,000万円以下の事業者は、税務調査時にダウンロードに応じれば検索要件は不要です(国税庁:適用要件【基本的事項】)。

建設業に固有の論点

建設業は書類の種類が多く、現場と本社、元請と下請、設計と施工の間で情報がやり取りされる業態です。一般的な解説では拾いきれない論点を5つ整理します。

論点1:図面(CAD/BIM/PDF)は電帳法の対象か

設計図面そのものは法人税法・所得税法上の帳簿書類ではなく、電帳法の直接の対象ではありません。電帳法が対象とするのは、国税関係帳簿と国税関係書類(請求書・領収書・契約書等の取引証憑類)です。

ただし、契約書に添付された図面、請求書に添付された出来高内訳図、注文書に添付された仕様図などは、その取引書類の一部として保存対象となります。電子で授受した場合は電子取引データとして、紙で受領した場合はスキャナ保存または紙保存が必要です。

なお図面そのものの長期保存については、日本建設業連合会が「建築工事における書類・図面の電子化/保存ガイドライン 第2版」を公表しており、保存すべき図書の範囲・ファイル形式・保存媒体の考え方をまとめています。電帳法とは別軸の業界自主基準として参照されます。

論点2:工事請負契約書・注文書の電子化と建設業法

建設業法第19条は工事請負契約に書面交付を義務付けていましたが、2001年改正で相手方の承諾があれば電子契約も可能と明文化されました。2018年以降のグレーゾーン解消制度を通じた国土交通省の照会回答により、電子署名+タイムスタンプ等で「見読性・本人性・原本性」が確保されれば、立会人型(事業者署名型)電子契約も適法と確認されています(クラウドサイン:建設業法グレーゾーン解消制度フリー:freeeサインの適法性確認)。

さらに2025年9月、国土交通省の建設業法に基づくガイドラインが24年ぶりに全面刷新され、立会人型電子契約の適法性が明確に位置づけられました(le-techs:建設業の電子契約2025年9月ガイドライン解説)。請負契約は印紙税の課税文書であるため、電子化による印紙税節約効果もあり、移行の合理性が高まっています。注文書・注文請書も同様に電子化が可能です。

論点3:出来高検収書・納品書・施工写真の扱い

建設業の請求は出来高払いが基本で、元請が発行する「出来高検収書」をベースに請求が回るケースが多くあります。インボイス制度との関係では、元請作成の出来高検収書を下請が記載事項を確認することで、適格請求書の代替として仕入税額控除を受けられる運用が認められています(国税庁:消費税軽減税率制度等Q&A 問97)。

電子で授受した出来高検収書は電子取引データ保存、紙で授受した場合はスキャナ保存または紙保存となります。施工写真や日報は税務上の証憑ではありませんが、請求書に添付された場合は請求書とセットで保存するのが実務的です。

論点4:下請事業者とのデータ連携

下請企業はITリテラシーや投資余力に差があり、電子化の足並みを揃えるのが難所です。実務上は元請が下請向けポータルを用意して注文書・検収書・支払通知書を発行・保存し、下請が専用URLからダウンロードして電子署名する形が主流です。

ここで重要なのは、元請がポータルで発行した書類を下請がダウンロードした時点で、双方にとって「電子取引」が成立する点です。下請側にも電帳法に従った保存義務が生じるため、元請は周知・サポートを行うことが望まれます。

論点5:タイムスタンプ・検索要件・改ざん防止の現実解

タイムスタンプは認定TSAが発行し付与コストがかかりますが、2022年改正以降は訂正・削除履歴が残るシステム(または訂正削除不可のクラウドサービス)で授受・保存すれば、タイムスタンプ付与は不要です。多くの会計クラウド・電子契約サービスがこの要件を満たすため、サービス選定で解決できる場合が大半です。

タイムスタンプを使わない場合は事務処理規程の整備で対応可能で、国税庁がサンプルを公開しています(国税庁:参考資料(各種規程等のサンプル))。検索要件はファイル名を「日付_取引先_金額」で統一する運用でも満たせますが、書類量の多い建設業では早めにシステム化するのが現実的です。

建設業向け実務対応ステップ

ゼロから対応を進める場合の標準的なステップは次のとおりです。

  1. 取り扱う書類の棚卸し:工事請負契約書、注文書、見積書、請求書、領収書、出来高検収書、納品書、添付図面・仕様書などを「紙/電子」「発行/受領」「相手先」で整理
  2. 電子取引データの保存ルール策定:保存先・命名規則・保存期間を決定。当面は共有フォルダ+事務処理規程でも可だが、書類量を踏まえシステム化前提で設計
  3. システム選定と段階的導入:請求書受領 → 電子契約 → 注文書・検収書の順で導入。建設業ERPなら工事台帳・原価管理と一体化可能
  4. 下請・取引先への周知:切替時期・運用方法の通知と説明会の開催。下請側は元請ごとに異なるシステム対応が必要となる場合あり
  5. 事務処理規程の整備と教育:現場が請求書・領収書を本社に回付する手順(写真撮影+クラウドアップロード等)を明確化し、紙運用への逆戻りを防ぐ

JIIMA認証ソフトの選び方

JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)は、電帳法の要件を満たしたソフトを審査・認証する制度を運営しており、国税庁もこれを参照しています(JIIMA:認証制度国税庁:JIIMA認証情報リスト)。主な認証区分は、電子帳簿ソフト・電子書類ソフト・電子取引ソフト・スキャナ保存ソフトの4種です。

建設業の経理担当者がソフトを選ぶ際の比較観点は次のとおりです。

  1. JIIMA認証の有無と範囲:対応したい区分の認証取得有無
  2. 建設業特化機能:工事別原価管理、出来高請求、建設業ERPとの連携
  3. 下請・現場との連携:スマホアプリ、ポータル機能、写真添付
  4. 既存システムとの接続:会計・販売・工事台帳とのAPI連携
  5. コストとサポート:初期費用、月額、導入支援、税法改正への追随

建設業ERPの「PROCES.S」のように電子帳簿・電子書類の双方でJIIMA認証を取得した製品もあり、業界特化型を検討する価値があります(内田洋行:PROCES.SがJIIMA認証取得)。

ペナルティと猶予措置

電帳法違反のペナルティは、隠蔽・仮装があった場合の重加算税10%加重、会社法第976条による100万円以下の過料、そして保存状況が著しく悪い場合の青色申告承認の取消しが主軸です。実務的に最も影響が大きいのは青色申告承認の取消しで、欠損金繰越や各種特別控除が使えなくなります。

一方、2024年1月以降もシステム整備が間に合わない事業者向けに新たな猶予措置が設けられています。次の2要件を満たせば、改ざん防止・検索要件の充足が不要となります(国税庁:電子帳簿保存法の内容が改正されました)。

  1. 所轄税務署長が**「相当の理由」**があると認める(事前申請不要)
  2. 税務調査時に電子データのダウンロードと、印刷書面の提示・提出に応じられる

「相当の理由」はシステム未整備・資金不足など実務上の事情が広く含まれると解されています(マネーフォワード:電帳法の猶予措置における「相当の理由」)。ただし電子データ自体の保存は必須で、紙だけ保存してデータを破棄すると猶予措置の対象外になる点に注意してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. メールで受け取った請求書PDFを印刷して紙でファイリングしています。電子データを破棄してよいですか?

A. いいえ。電子データのまま保存する必要があります。紙ファイリングは社内便宜上は構いませんが、PDF原本も電帳法の要件に従い保存してください。

Q2. FAXで受け取った請求書はどう扱いますか?

A. 紙出力されるFAXは紙書類としてスキャナ保存または紙保存の対象です。インターネットFAX等で電子的に受信した場合は電子取引データとなり、電子保存が必須です。

Q3. 図面の長期保存(建設業法等に基づく保存)は電帳法と関係ありますか?

A. 直接の関係はありません。建設業法・建築士法等に基づく図書の保存義務と、税法に基づく電帳法の保存義務は別軸の制度です。運用上は図面管理システムでまとめて電子保存するケースが増えています。

まとめ

改正電帳法への対応は、単なる経理作業ではなく、建設業の取引プロセス全体をデジタル化する契機です。本記事の要点は次のとおりです。

  • 2024年1月から電子取引データの電子保存は完全義務化。紙出力での保存は原則NG
  • 建設業特有の論点として、工事請負契約の電子化(建設業法対応)出来高検収書の扱い下請事業者との連携図面の取り扱いを押さえる
  • 改ざん防止はタイムスタンプ、訂正削除履歴システム、または事務処理規程で対応可能
  • JIIMA認証ソフトを選べば要件適合性の確認が容易
  • 当面は**「相当の理由」による新猶予措置**が利用可能だが、電子データ自体の保存は必須

電子化が進めば、書類検索の効率化、印紙税の節約、情報共有改善といった本業上のメリットも大きいはずです。まずは取り扱い書類の棚卸しから始めましょう。

参考・出典

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